不器用な僕たちは。 

  2








ようやく気が付いて教団へと帰り着く頃には、辺りはもう真っ暗で、
皆もう眠りにつく時分だった。しんと静まり返る廊下に、
アレンの靴音だけが力なく鳴り響く。
 

すると、そんなアレンの帰りを待っていたかのような声が、
ふと背後から降りかかった。



「随分と遅いご帰還だな?」
 


聞き覚えのある声に、アレンの身体が自然に反応する。
暗い廊下から視界に入ってきた影は、今日昼間探しに探しぬいて、
自分を絶望へと追い込んだ相手以外の何者でもなかった。



「……カンダ……」
「こんな遅くまでフラついて、いいご身分だな」



いつもと変らぬ憎まれ口に、アレンはぎゅっと唇を噛み締める。



「自分だって……」



いつものように憎まれ口を叩き返すつもりだったのに、
次いで出たのは大粒の涙だった。



「……モヤシっ……?」
 


泣かせるほど酷い嫌味を言ったつもりはなかったのに、
目の前のアレンは今までに見たこともない顔で泣き崩れている。
両の瞼は既に赤く腫上がり、
既に何時間も泣き続けていただろう事実を物語っていた。



「何で泣いている! 怪我でもしたのか? それとも……何かされたのか?」
 


慌てて近寄り、心配そうに覗き込む。
しかし、当のアレンは理由を尋ねても泣きじゃくるばかりで何の返事もしない。



「……とにかく、ここじゃ話にならねぇ。行くぞ」
 


まるで子供をあやすように呟くと、
アレンの手を無理やり引いて自分の部屋へと赴く。
そしてアレンを自室のベッドに座らせると、
その前に椅子を持ちよって自分も腰を掛けた。



「……で、何があった? 
 泣いてばかりじゃ解んねぇじゃねぇか。
 まさか、また誰かを救い損ねたのは自分のせいだとか、
 ふざけたこと言うんじゃねぇだろうな?」



悪びれないその言い方に、アレンは少しムッとする。
確かに、一方的に恋愛感情を抱いて玉砕してしまったのは、神田の責任ではない。
自分の勝手だ。
だが、自分以外の特定の誰かがいたとしたなら、逆に優しくなんてして欲しくなかった。


出逢った時と同様、無視して、蔑んで、
徹底的に近くに寄り付かせなければ良かったのだ。
 

理不尽な理屈とは判っていながらも、アレンはそんな感情を、
今目の前に居る神田にぶつけずにはいられなかった。
それで嫌われてしまっても仕方がない。
また振り出しに戻るだけ。
いっそその方が楽になれるかもしれないとすら思えた。



「……全部、全部、全部。神田のせいです!」
「はあっ? 何だそれ? 俺がお前に何をしたって言うんだよ?」
「神田が悪いんです! 男のくせに綺麗な顔をしてるのも、
 そのくせめちゃくちゃ強いのも、たまに僕に優しくしてくれるのも、
 全部神田がいけないんです! 
 恋人がいるなら、はっきりそう言えばいいじゃないですか?」
「なんか、めちゃくちゃで意味わかんねぇ……」



アレンが何を怒っているのかは知れないが、
自分に対して腹を立てているのは明らかだ。 
だが、どうしてここまで言われなければならないのか。
神田はムッとしながら返事を返す。



「何を勘違いしてるのか知らねぇが、俺に恋人なんかいやしねぇぞ?」 
「へぇ、今更しらばっくれようって言うんですか? 
 僕、ちゃんと知ってるんですよ? 
 緋色のマントを着た綺麗な女性と街で一緒でしたよね? 
 あ……それとも何ですか? 彼女は恋人なんかじゃなくて、
 欲求不満を解消するためのただの道具だったとか? 
 で、遊んだ挙句に妊娠しちゃったから、住む所だけあてがって、
 はいさようならって訳ですか? 
 真面目そうなのは上辺だけで、
 本当はAKUMAも真っ青な性欲旺盛なケダモノだったんですねっ!」
「……なっっ!」
 


神田は、おそらくアレンが昼一緒だった女性のことを言っているのだろうと悟った。
女性と一緒の場面を見られてしまったのはマズかったと思ったが、
それでもアレンにここまで言われる筋合いはない。



「はぁ? 何を買いかぶっているか知らねぇが、俺だってただの男だ。
 やりたい時にやりたいことして何が悪ぃ。
 別に任務に支障は来たしてねぇだろうが?」



売り言葉に買い言葉。
咄嗟に心にもない言葉を返すと、
アレンが更にショックを受けたように大きな瞳を丸くする。



「ふっ、不潔です! 
 好きでもない女性を、ただの性欲処理のために使うなんて酷いですっ! 
 おまけに妊娠してる女性を、捨てるっていうんですかっ? 
 神田の人でなしっ!」
「ばっ、何言ってやがる! その女の子供が、俺の子なわけねぇじゃねぇかっ!」
「……っ、誰の子だかわからないからって、
 それが神田の子じゃないとも限らないんでしょ? 
 散々好き勝手しておいて、今更それはないじゃないですか?」
「彼女は……お前が考えているような卑しい女じゃない。
 それに万が一俺が金で女を買うような男だとしても、お前には関係ねぇだろ。
 それとも何か? 代わりにお前が俺の欲求不満を解消してくれるとでも言うのかよ?」
 

ぐっとアレンが言葉に詰まる。
別にアレンを困らせたいわけではなかった。
ちゃんと話し合えばいいものを、
つい感情的になってしまうのは神田の悪い癖だ。
 

アレンの方も、普段は相手が神田でなければこんなふうにはならない。
至って冷静に事を運ぶのが取得と言っても言い過ぎではない。
神田に特定の女性がいたというだけで、それがどんな相手だろうと、
もう考えに収集がつかなくなっていたのだ。 
 

そして次の瞬間出た言葉は、神田が予想もしていないものだった。


「望むところですっ! キミが誰か他の人に触れるぐらいなら……
 いっそのことそうしてください!」


  
その言葉に、神田は驚いて言葉を失う。
当のアレンは真っ赤になって、小刻みに身体を震わせて俯いたままだった。



「お前、自分が何言ってんのか、意味解かってんのか?」
「わっ、わかってますよっ! 
 神田こそ、言い出したからにはちゃんと約束を守ってください!」
「はっ……上等じゃねぇか」



神田は俯くアレンの傍ににじり寄ると、その顎をぐいと持ち上げた。
あくまで顔を逸らそうとするアレンの顔を無理矢理自分の方へ向かせると、
その唇に噛み付くようなキスを落とす。



「んっ……んんっ……」
 


初めは頑なに唇を閉じていたが、顎の付け根を押さえ込まれ、
否応なしに口を開かされては舌を捻じ込まれる。
薄く空いた唇の隙間から、神田の舌が入り込んでは我が物顔で口内を蹂躙する。



「ふっ……はぁぁっ……」



その唇から注ぎ込まれる熱く甘い吐息に、思わずぞくりと身震いがした。
不本意ながらも、今、こうして神田と唇を重ねている。
その事実は、アレンの身体を自然と熱く火照らせた。
 

長く激しい口付けから解放される頃には、既に全身から力が抜け、
全身が麻痺してしまったようにぐったりとしてしまう。
 

首筋から胸元、わき腹から内股へと、神田の手と唇がアレンの身体を這い回ると、
意識も朦朧として、もう何も考えられなくなってしまっていた。



「はぁっ……あぁんっっ!」



胸元の飾りを口に含まれ、思わず背中を仰け反らせる。
何度も舌で弄られ甘噛みされると、そこは赤みを帯びて硬く先を尖らせた。


既にさっきまで身に纏っていた衣類は全て剥ぎ取られていて、
薄く色づいた白い肌が神田の目の前に曝されていた。



「あっ……やぁっ……カンダっ……!」



無意識にそそり立ってしまっていた中心部に触れられ、あからさまに扱かれる。
愛しい相手の綺麗な白い指を、己の先走りの液で汚してしまう事に躊躇しながらも、
それでも全身を走り抜ける快感に逆らう事が出来なくなってしまう。



「嫌だって言うわりに、もう前も後ろもぐちゃぐちゃだぜ……
 お前、男は初めてじゃないのか?」



欲望に上気した吐息を耳元に押し当てながら、神田が呟く。



「ひど……いっ……キミだか……らっ……」
「俺だから……何だ?」



相手が神田だから……好きで好きでたまらない相手だから、
本来抱かれるはずのない身体を目の前に晒しているのではないか。
 

そう言いたくても、声が上ずって思うように紡ぐことすら出来ない。
アレンは恨めしそうに神田を睨み付けると、言葉の代わりにその唇に噛み付いた。



「ふっ……はぁっ……あぁんんっっ……」
 


神田もお返しとばかりに愛撫を激しくする。
そして、まだ慣れ切っていない蕾に、
激しく猛った己を強く押し当てると、そのまま一気に貫いたのだった。



「あっ……やぁぁぁっっ!」



予期せぬ突然の痛みに、アレンは思わず涙を迸らせる。
まるで身体を二つに引き裂かれるような痛烈な感覚。
自ら身体を提供するとは言ったものの、あまりの痛みに堪えきれず、
我を忘れて大きな悲鳴を上げてしまう。
痛みに身体を捩らせ、何とか逃れようともがいてみても、
その身体は神田の腕に強く縫いとめられていて、身じろぎひとつ出来はしない。



「ダメだ……逃がさねぇ……お前が言い出したんだ……諦めて、俺に溺れてろ」
「やっ……あぁぁぁぁっっ……!」
 


固く抱き竦められ、口付けられたまま腰を動かされる。



「お……ねがぃ……も……ダメっ……」



神田はアレンの泣き濡れた頬を舌で拭いながら、
その締め付けに身震いする。
嗚咽を漏らす小さな唇を啄ばみながら、何度も激しく腰を深く押し入れた。
 

初めは痛みに卒倒しそうな勢いだったアレンも、
神田の動きに触発されるように徐々に腰を動かしだす。
さっきまでの痛みの中に、今度は言いようもない快感が混じりだしてきて、
アレンは堪らず大きな嬌声を漏らしていた。



「お……ねがい……も……うっ……」



これ以上されたらどうにかなってしまいそうだ。
アレンの願いも虚しく、神田はさらに激しく腰をグラインドさせ、
より深い場所を探ってくる。

 
激しく感じる場所を何度も擦られ、
アレンはもう何が何だかわからなくなっていった。



「あぁぁっ……あ、んぁぁっ……」



身体を弓なりにしならせ快感に嗚咽する。
神田も徐々に限界が迫ってきていた。呼吸が荒くなり、
耳元で聞こえる声も切羽詰ってきている。
抜き差しするスピードが上がり、
湿った粘膜を擦り合わせる淫乱な音が派手になっていった。



「カ……ンダっ……やっ……あぁぁぁっっ!」



揺さぶられ、肌と肌とが叩き合わされ、
突き上げられては引きずり出される。



「……んっ……」



神田がアレンの中で一層大きさを増し突き上げた瞬間、
熱い飛沫がその中で解き放たれた。



「やっ、ああぁぁぁぁぁ!」



一層甲高くなった声でアレンが叫ぶ。
己の欲望を解き放った瞬間、目の前が真っ白になりアレンはそのまま意識を手放す。


神田の腕に抱かれながら、
明けない夜の宴へとその身を投げ出してしまったのだとは知りもせずに……。



















                        
       
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